大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和59年(ラ)256号 決定

抗告人 神原千恵子

右代理人弁護士 田中秀雄

同 木村治子

同 高橋敬

同 吉井正明

同 筧宗憲

相手方 森本久雄

主文

原決定を取り消す。

相手方の本件申立を却下する。

手続費用は原審及び当審を通じて相手方の負担とする。

理由

一  本件執行抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

二  ところで民事執行法八三条一項本文によれば、引渡命令は、「債務者又は事件の記録上差押えの効力発生前から権原により占有している者でないと認められる不動産の占有者」に対してのみ(ただし「事件の記録上差押えの効力発生後に占有した者で買受人に対抗することができる権原により占有している者」を除く(同項ただし書))発しうるものであり、同項ただし書と対比すれば、同項本文の「権原」は、債務者(所有者)に対する関係で占有権原が存在すれば足り、その権原が買受人に対して対抗力を有することまでは必要としないものと解するのが相当である。

そこで本件につき検討するに、一件記録によれば、本件物件につき、株式会社兵庫相互銀行の根抵当権(昭和五四年一一月三〇日設定、同日登記)に基づく競売申立により、神戸地方裁判所が昭和五六年九月二一日に不動産競売開始決定をなし、右決定に基づき同月二二日差押登記がなされたこと、相手方は、昭和五九年三月一六日本件物件につき、売却許可決定を受け、同月二三日代金を納付したこと、一方、抗告人は、昭和五五年一二月一日、当時の所有者の神原正男から、本件物件を、期間を二年と定めて賃借し、その頃その引渡を受け、以来「喫茶飛鳥」の屋号で喫茶店として使用し占有してきたことが認められる。そうすると抗告人は、差押えの効力発生前からもと所有者との間の賃貸借契約により本件物件を占有している者であり、右賃貸借は短期賃貸借であって、その期間が経過しているが、もと所有者において右賃貸借契約の更新を拒絶した事実も認められないから、もと所有者に対しては、期間が更新されたものとして右賃貸借を主張しうるものといわざるをえず、右期間の更新を買受人たる相手方には対抗しえないとしても抗告人は、民事執行法八三条一項本文にいう「差押えの効力発生前から権原により本件物件を占有している者」に当るものと解すべきである。

したがって本件においては、抗告人に対しては、不動産引渡命令を発しえないものといわなければならない。

三  以上によれば抗告人に対して不動産引渡命令を発した原決定は違法であるから、これを取り消し、相手方の本件引渡命令申立を却下し、手続費用は相手方に負担させることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 村上明雄 裁判官 寺﨑次郎 安倍嘉人)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例